完成までのストーリー

心地よい空と緑と、
ご近所さんとの
ちょっとした会話。

2021.10

大規模マンションを開発すると、お住まいの方だけでなく地域の方々も自由に使える提供公園を敷地に作ることがあります。元々はマンションの敷地の一部なのですが、それを自治体に提供することから、提供公園と呼ばれています。
通常であれは民間・行政がそれぞれを計画し、建物とは切り離されて考えていた提供公園を、今回の「デュオヒルズ南町田THE GARDEN」では、居住者と地域の人たちのコミュニティ形成の場となるように、町田市と連携して開発を進めていきました。
「デュオヒルズ南町田THE GARDEN」のプロジェクトストーリーをご紹介します。

再開発の街で

東急田園都市線の沿線は1950年代から「東急多摩田園都市開発事業」として、渋谷周辺や二子玉川、たまプラーザなど沿線主要駅において、大規模な再開発が進められてきました。
今ではすっかり人気エリアとなった南町田もその対象で、2018年には急行の停車駅に、そして2019年には駅前のショッピングモール「グランベリーパーク」がリニューアルし、再開発が進められてきました。
そんな南町田で、私たちがマンションを作ることを決めたのは2016年のこと。町田市から再開発の構想はありつつも計画の行く末はまだ不透明でしたが、このエリアが持つ自然の魅力や、市が描く構想に魅力を感じて、マンションを作ることを決めました。

南町田グランベリーパーク駅
sunny / PIXTA(ピクスタ) )
鶴間公園(2017年撮影)

空の広さを生かして

初めて計画予定地を訪れた際の第一印象は、思っていた以上に暗いというのが正直な感想です。駅周辺に緑は多いものの、計画地に近づくにつれて駐車場や小さな町工場が増え、どこか寂しい印象を抱きました。
今回は5階建ての低層マンションを計画していたので、上層階と比較するとどうしても日当たりが悪くなりがちな1階住戸もたくさんあります。この雰囲気では良い住環境は作れないかもしれないと不安に駆られました。
そんな時にメンバーの1人が「空がとても広い場所ですね」と、なんとものんびりと言うのです。その言葉にハッとしました。空は後からでは手に入りませんが、居心地の良さは自分たちで育てることができます。そのためにもこの場所で、緑を育てていこう。高い建物がない立地を最大限生かして、緑が溢れる庭のようなマンションを作ろうと決めました。

マンション建設前の現地写真(2017年撮影)

庭から始まる人との繋がり

庭というキーワードにたどり着いたのには、もう1つエピソードがあります。
それはマンション予定地の近くにある公園を訪れた時のことです。公園の東屋のベンチに座って、子どもたちが宿題をしたり遊んだりと、思い思いに楽しそうにしている姿が目に入りました。お母さんたちは、木陰のベンチで会話がはずみます。その穏やかな時間に、「この風景をマンションでも作りたい!」と心を動かされました。今回の物件は、提供公園が併設されることになっていたので、マンションを通じてその町に移り住む人と、この地域に住まう人同士のつながりが生まれるような公園にしようと決めました。

円と縁の園

こうして、庭や人の縁といったキーワードをもとに議論を重ね、コンセプトの「円と縁の園」が出来上がります。そして、マンションと提供公園を一体的に計画し、3つのガーデンを作ることにしました。アプローチにはエントランスガーデン、共用部の中庭にはサークルガーデン、そして提供公園のアリーナガーデンです。
それぞれが「円」をモチーフに、マンションの中と外が連続した空間として感じられるような意匠にすることにこだわり、まちに開いていくことを目指しました。そうすることで、居住者だけでなく、近隣にお住いの方にも利用してほしいと考えたからです。

ここで1つ、私たちは壁にぶつかります。それは、提供公園についてでした。
通常であれは民間・行政がそれぞれを計画し、建物とは切り離されて考えていた提供公園を、今回は居住者と地域の人たちのコミュニティ形成の場となるように、町田市と連携して開発を進めていくわけです。エントランスや共用施設を一体的にデザインしましたが、町田市としては、市が管理するのでメンテナンスの手間を考えると、それを承諾するのは大変なことだったと思います。しかし、環境を変えることで、地域の評価をあげたり、人のつながりをつくりたいという双方の思いから、町田市に全面的に協力をしてもらい、理想の提供公園をつくることができました。

アプローチのエントランスガーデン(2019年撮影)
中庭のサイクルガーデン(2019年撮影)
提供公園のアリーナガーデン(2019年撮影)

1階から売れていくマンション

今回、もう一つ私たちが力をいれたのが1階住戸のプライベートガーデン(テラス)です。気持ちの良い共用部の庭から続くデザインにしようと、各住戸で空が広く見渡せる広さを確保しました。この広さがあれば、子どもが自由に遊んだり、ガーデンファニチャーも置くことができます。また、芝生の手入れは大変なので、タイルにすることで掃除がしやすく、家具を置いても土がつかず、部屋の延長のような感覚で使えるよう仕上げました。部屋の延長という点では、リビングとテラスの一体感を出すために、開口部を全開放サッシにしたのも、こだわったポイントです。
テラスの端には植栽コーナーを設けて、入居のタイミングで各家庭に1本、木を植えてもらいました。こうすることで、庭に愛着をもってもらえたらと思ったからです。

実は、マンションは高層階から売れていくのが通説なのですが、この物件はマンションにもかかわらず広い庭を楽しめると好評で、1階から売れていったことにも驚きました。
購入者の方からは「元々戸建てに住んでいて、庭がなくなることが心残りでした。ここなら庭も楽しめるので決めました。テラスに家具を置いて楽しんでいますよ」と声をかけていただき、とてもうれしい気持ちになったと同時に、自分たちのアイディアに自信をもった瞬間でした。

モデルルームでプライベートガーデンを再現
(2018年撮影)

2019年の2月に完成し、約2年半が過ぎました。今ではマンションやその周辺に緑が生い茂り、初めて訪れた時のことを思い出せないぐらいです。そして、隣接する提供公園では、子どもを遊ばせる家族の姿も日常になりました。中庭のサークルガーデンも、子どもたちに人気で、周りを駆け回る子どもがいたり、硬質クッションの上で寝転ぶ子どもがいたり。幼稚園のバスのお迎えをするお母さんたちの憩いの場所にもなっています。
今回は提供公園を通じてマンションを街にひらくというチャレンジをしたわけですが、この物件をきっかけにフージャースでは、積極的に行政と連携して、街と物件の一体的な開発に取り組むようになりました。いうなれば、はじまりの物件。私たちにとっても思い出深いプロジェクトです。

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