完成までのストーリー

何気ない立ち話も、
未来の安心につながる街。

2021.07

災害が起きたら「国や自治体がなんとかしてくれるはず」と、私たちはつい期待してしまいます。けれど実際には、公助においての物資・避難場所の提供には限界があり、「自分の命は自分で守る(自助)」、「近くの人と共に助け合う(共助)」という自助・共助が原則です。
しかし、共助の意識はまだまだ低く、その関係性を作るための、挨拶、何気ない立ち話ができる環境やタイミングを作ることが難しい場所もたくさんあります。さらに戸建て住宅となると、管理組合もないので、それは尚更です。
今回は、そんな背景に一歩踏み込み、自然と人の繋がりが生まれ、それがいざというときの共助に繋がっていくまちづくりの取り組みとして、デュオアベニュー国立ノーブルを紹介します。

大規模開発だから
生まれたきっかけ。

2014年、私たちは、国分寺市で敷地面積約10,000㎡の大規模な土地と出会いました。JR中央線「国立」駅から徒歩15分、周りを公園や田畑などの自然環境に恵まれたこの土地は、子育てやリタイア後の新しい暮らしを始めるには、ぴったりの土地です。

JR中央線「国立」駅

この規模の土地となると、「開発許可」といって土地の開発に対して都市計画法に基づく許可を得ることが必要となります。私たちも、そのルールに則って国分寺市と打ち合わせを重ねながら、許可の取得を進めていました。
そんな時、近隣の自治会から避難訓練を実施する場所がないので、私たちの敷地の一部を利用させてもらえないか、と相談が舞い込んできました。
「引っ越してくる住民の方と自治会員の皆さんとで、土地の利用に留まらず、防災を通して一緒に新しい街づくりにチャレンジできそう」と、私たちはその申し出を喜んで受けることにしました。これをきっかけに、防災というまちづくりの大枠のテーマが決まりました。

遠くの親戚よりも、近くの知人。

フージャースでは、これまでも分譲マンションで防災備品の提供や、防災倉庫の設置、コミュニティ形成の支援など、ハードとソフトの両面から住民の皆様のサポートを行ってきたこともあり、共助や防災に対しての素地がありました。
一方で、戸建て住宅は各世帯それぞれに防災対策が委ねられ、一般的にはマンションよりもハード・ソフトの両面で劣る部分が大きかったのが、以前から気がかりでした。そこで今回のまちづくりは、自治会からのお声がけをきっかけに「分譲戸建てでも実現できる、共助に着目したまちづくりをしてみたい」と思ったことも実施するに至った理由です。
防災から一歩踏み込んで、住民同士の繋がりが自然に生まれ、それが共助にもつながっていく街にしようと、まちづくりの方針が決まった瞬間でした。

住宅街の真ん中に公園を作る。

今回の構想で最も悩んだのが、日常のコミュニティが作られる場所であり、防災の拠点ともなる公園の設置場所でした。広い敷地を前にして、来る日も来る日も区割りを検討。当初は、街区の端に公園を設置する案や、街区内の道路に面した形で公園を作る案もありました。「どうしたら、もっと自然に心地よいコミュニティが生まれる街区計画にできるのか」。試行錯誤の末にたどり着いたのが、街の中心に公園を配置することでした。この公園には自然と人が集まってくるように、公園に向かってフットパス(車が通れない道)を通して、3方向から入れるようにしています。これは、誰もが安心して公園に行けるのと同時に、災害の時には、すぐに公園へ避難できることも考慮しています。

街区の中央に設置した公園(2021年撮影)
各街区から公園へ入れるフットパス(2019年撮影)

散歩する人と目が合う郵便ポスト。

公園で出会うこと以外にも、日常生活の何気ない瞬間に、住んでいる人同士が、心地よくつながる仕掛けが作れないかと思っていたときに、郵便ポストの存在に気づきました。「日に数回は見る郵便ポストが、何か挨拶のきっかけにならないだろうか」。
今回の計画では、各街区それぞれの中心に広い街路を通して、それを囲むようにして1ブロック15世帯程度で構成をしています。その街路に面して郵便ポストを設置し、住宅と街路の間にゆとりのあるセットバックを設けることで、家のプライバシーを守りながら、郵便物を取りに行った際に、街路を歩く人と自然と目が合い、挨拶が生まれるようにしたのです。
毎日を過ごす中で、自然と同じ街区の人と挨拶ができて、顔と名前が一致する関係になっていってほしい。郵便ポストの設置場所には、そんな思いが込められています。

郵便ポストを道路面に設置し コミュニケーションのきっかけに(2017年撮影)

眠れる防災から、使える防災へ。

防災備品というと、万が一の時に備えておくもの。しかし、実際に何か起きた時に使えなかったとなれば、それを準備する意味はありません。
今回のまちづくりのテーマが「防災」ということもあって、これまでの知見を活かし、メンバーからは防災備品のアイデアが、どんどん出てきました。「選んだ備品や設備が、配って終わり、作って終わりにはしたくない」。そこで防災アドバイザーの岡部梨恵子さんにもチームに加わっていただき、本当に役に立つ防災備品は何か、また日常の中でどう災害に備えるか、プロの目線でアドバイスをいただきました。

夜中の災害に備えて 寝室には常にシューズや懐中電灯を置くことを推奨(2017年撮影)

街の真ん中の公園には、普段はベンチですが、災害時には「かまど」になる防災ベンチを設置。また、地域共用の防災倉庫も設置しました。そして有事の際に、いつでも、誰でも、この防災用品を使えるようにと、デュオアベニュー国立ノーブルオリジナルの防災マニュアルを作って、防災備品の使い方を一つひとつ丁寧に解説していきました。
しかし、ただ知識をインプットするだけでは、使えるようにはなりません。そこで、スキルとして身につけて欲しいという思いや、住民同士の交流のきっかけになればと、入居半年のタイミングで防災イベントを実施して、実際に防災備品を使ったり、災害時の調理法として有効なビニール袋に食材を入れて温める「パッククッキング」の勉強会も行いました。
また、こういった取り組みが組織として継続的に行われるようにと、引き渡しのタイミングで自治会の新設も実施しました。
こうしてソフト・ハード両面で「共助」の仕組みを整えることで、いざというときに困らない、自律的に共助が生まれる街が出来上がっていきました。

防災イベントの様子(2018年撮影)
入居者交流会の様子(2018年撮影)

何かあっても大丈夫。

入居から約3年が経ち、街の様子は大きく変わりました。公園には人が集い、街の人の憩いの場所として利用されるようになっています。同じ時期に生まれた子どもたちが、楽しそうに公園を走り回り、お母さんたちは、そんな子どもたちの様子を見ながら、ベンチに座っておしゃべりを楽しんでいる。そんな光景も、よく見かけるようになりました。
ある住民の方からは、「災害に限らず、普段の生活でも何かあった時には、近隣の方と連絡を取り合っていますよ」というお話も聞きました。
「防災」をテーマに、戸建て分譲地で日常のコミュニティを作ろうと始まった今回のプロジェクト。
コミュニティ形成と防災を地続きのものと捉えてのチャレンジでしたが、この街ではこれからも住民同士の繋がりが深まっていき、(何もないことが一番ですが)いざというときに力を発揮すると思うのは、間違っていないと思います。

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